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札幌地方裁判所 昭和49年(行ウ)6号 判決 1978年7月21日

原告 鈴木友子

被告 国

訴訟代理人 上野至 林茂保 ほか四名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告に対し、昭和四九年三月一日付任用行為に基づき一般職に属する国家公務員たる地位にあることを確認する。

2  被告は原告に対し、金一〇〇万円および昭和四九年四月一日以降、一日につき金二、四二五円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告国の文部大臣は、その部内の室蘭工業大学(以下、室工大という)学長に対し、同大学の職員についての任命権を委任していたが、同大学長金森祥一は、昭和四九年三月一日原告を被告の一般職職員たる同大学会計課事務補佐員として、かつ日給(勤務八時間につき)金二、四二五円を給するものとして採用した。

2  しかるに、室工大学長は、原告が被告の一般職職員たる地位にあることを知り又は知り得べきであるのにこれを争い、かつ昭和四九年四月一日以降、原告からの勤務の提供を拒絶し、給与の支払をしない。

3  従つて、被告は右室工大学長の行為により原告が蒙つた損、告を賠償し、かつ給与の支払をなすべき義務がある。ところで、原告は室工大学長の右違法な行為により、名誉が著しく傷つけられ、よつて精神的な損害を蒙り、これを慰藉するには金一〇〇万円の支払が相当である。

4  よつて、原告は被告に対し、昭和四九年三月一日付任用行為に基づきその職員たる地位にあることの確認及び、昭和四九年四月一日以降、一日につき金二、四二五円の割合による給与並びに金一〇〇万円の慰藉料の各支払を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

請求原因1の事実は認める。2の事実中、室工大学長が原告の地位を争いかつ原告からの勤務の提供を拒絶し給与の支払をしないことは認めるがその余の事実は否認する。3の事実は否認する。

三  被告の抗弁

1  室工大学長は、本件原告の任用に当り、その任期を一日とし、任命権者たる同大学長において別段の措置をしない限り、任用が日々更新される期間としての任用予定期間を昭和四九年三月三〇日までとして任用したものである。本来職員が任期を定めて採用された場合は、その任期が満了したときに更新されない以上、当然に退職するものとされるところ(人事院規則八一一二(職員の任免)第七四条第一項)、同大学長は、原告の採用に当り同年三月三〇日迄は別段の措置をしない限り予め更新する旨定めたのであるから、原告につき同年三月三〇日迄は日々任期一日の定めで更新されたものであるが、以後は新な更新がない以上、同年三月三〇日を以て任期満了により当然退職の効果が生じたものである。尤も人事院規則八-一二(職負の任免)第七四条第二項は、新な明示の任用更新の意思表示はなくても、従前の任用が同一の条件を以て更新されたものとする場合のあることを規定しているが、これは(1)日々の雇用の職員が引続き勤務していること、(2)任命権者がこれを知つていること、(3)任命権者が別段の措置をしないことの各要件がすべて充足された場含に初めて適用されるものであつて、原告につき昭和四九年四月一日以降はこの場合に当らないことは言う迄もないところである。

2(一)  このような非常勤職員の日々雇用の任用形態は法の認容するところである。

即ち(1)国家公務員法(以下、国公法という)上このような任用の形態を禁止した規定が存しないこと、(2)また同法第六〇条の臨時的任用の規定は、同法が常勤官職に職員を任用する場合は、期限の定めのない任用を以つて建前とする関係上、常勤職員の場合であつても特に必要がある場合には例外的に期限付任用を容認する趣旨を明らかにしたものであつて、同条が存在するからといつで、、国公法がいわゆる日々雇用の非常勤職員の任用を禁止しているものと解することはできないこと、(3)国公法附則第一三条は任用期限を定めて日々雇用される非常勤職員のあることをも前提とした規定と解されること、(4)更に人事院規則八一一四(非常勤職員の任川に関する特例)第一号、人事院規則八一一二(職員の任免)第七四条第一項第三号および同条第二項の各規定もこのような任用の形態を予定したものであること、などからすれば非常勤職員を任用期間を定めて日々雇用することは国公法第三三条の例外として、期限付任用を必要とする事由が存する場合には同法上当然に許容されているものと解せられるのである。

(二)  そして、このように解したとしても、任用期間を定めて日々雇用される非常勤職員は何ら公務員としての身分上の保障を奪われるものではない。けだし任用行為について期限の定めをすることは、およそ身分保障とは全く別個な問題であり(国公法の定める身分保障とは任用された公務員につきその後法定の事由および手続によらずして分限または懲戒処分をうけることのないことを担保することである。)、国公法および人事院規則に定める身分保障に関する規定の適用については、常勤職員と日々雇用の非常勤職員とでは何ら異るところがなく、ただ日々雇用の非常勤職員についてはその雇用形態に由来する当然の帰結として、身分保障が日々の任期の範囲内にとどまるにすぎないからである。

(三)  ところで本件任用については、期限付任用を必要とする特段の事由が存したものであり、又原告は本件任用に当りそれが期限付であることを承諾していたものである。

則ち、職務ないし業務が原則として恒常的に置く必要のあるものであるからといつて、そのことから、直ちにその事務処理を担当するすべての職員の官職が恒常的に置く必要のあるものと結論づけられるものではなく、特別の知識、技能又は経験を必要としない補助的、かつ単純な業務を内容とする官職については、必ずしも常時ここに一人の職員を配置して処理しなければならないものではなく、ここに職員を配置するか否かは、公務の能率的な運営をはかるためにその時々の業務量、常勤職員の構成・予算その他管理運営方針によつて変動するものであるから、このような官職については恒常性がないことは明らかなのである。

原告は、会計課用度係の事務のうち(1)補助簿作成関係事務、(2)電話料金関係事務、(3)予算差引簿作成関係事務に主として従事し、その他の雑用としては他の職員と交代で会計課長室の清掃、お茶出しなどを行つていたのであるが、原告の従事していた右各事務量の比率を大まかに表わせば、補助簿予算差引簿作成業務関係は七〇パーセント、電話料関係業務は二〇パーセント、その他維用が一〇パーセント程度である。

そして、原告は、補助簿予算差引簿作成関係業務に関して、主として調達主任である山崎事務官の指導のもとにこの事務の処理に当り、また、電話料金関係業務に関してみると、この業務のうちほとんどを用度係員である長沢事務官が行い、原告は常に同事務官の補助的立場で従事していた。このようにして原告の担当した事務を検討してみると予算差引関係については、主として既に確定された金額(数字)等を帳簿に記人し、加算する事務であり、電話料関係については、集金、公私分類及び集計である。これらは、定型的で、内部で充分相互補充が可能な事務であり、用度係の所掌事務の中でも一番簡易な部類の事務である。従つて能力的には、高校卒業程度の常識があれば特に経験等を必要とするものではなく、誰でも処理できるものであるに過ぎない。

したがつて、原告の充てられていた官職は恒常的なものとはいえず、原告を日々雇用の非常勤職員として採用したことは、なんら公務の能率的運営を阻害するものではなく、国公法上許されないものではない。

そして、本件において任命権行たる室工大学長は、原告を任用するに当つて、原告に対しその任用期間が昭和四九年三月一日より三〇日までであることを明確に述べ、かつこの旨が明らかにされている辞令書を交付しており、原告はこれを了知して右辞令書の交付を受けたのであるから、右の任用予定期間の定めについて、任命権者と原告の間に合意が成立していることは明らかである。

したがつて、原告の充てられていた官職が恒常的なものではなかつたこと、原告と任命権者との間に任用期限の定めがあることについて合意が成立していたこと等の事情からすれば、本件任用が期限付任用を必要とする特段の事由が存する場合に当り、かつこのような任用形態は国家公務員法上の職員の身分保障に反するものではないから、原告を期限付任用としたことに何の違法もない。

(四)  更に、定員内職員と定員外職員との根本的相異につき論及する。

行政機関の職員の定員に関する法律(以下「新定員法」という。)第一条は、内閣の機関並びに総理府及び各省の所掌事務を遂行するために、恒常的に置く必要がある職に充てるべき常勤の職員の総定員を定め、第二条において、内閣の機関並びに総理府及び各省の定員を政令で定めることとし、これを受けて、省庁別の定員は、行政機関定員令に定められている。この新定員法の規定による定員を占める者が定員内職員であり、これ以外のものが定員外職員である。このように定員内職員たる常勤職員数は、法および政令により固定されているので、これ以外に常勤職員を任用することはできない。

ところで、定員外職員のうちその大多数を占める非常勤職員の任用及び任期については、定負外たる非常勤職員を定員内職員の如き厳格な成績主義を以つて採用していたのでは、日々変化する事態に適応することができないこと、また非常勤職員は、その発生の経緯からして、事務補助的又は肉休労働的な単純職務が通例であるので、特別な能力の実証は不要であることから、これらの任用は常勤職員のそれに比し、きわめて弾力的になされることが要請され、かつ、その任期は恒常的なものではあり得ない。それゆえに、定頁外たる非常勤職員の採用については、定員内たる常勤職員と異なつた取扱いがなされており、競争試験又は選考のいずれの方法にもよらず自由任用とすることができ、また条件附任用期間の適要も除外され、この反面非常勤職員に対しては、その職務と責任の特殊性から、人事院規則等において、その職務遂行の必要性から常勤職員に対して課される規制の対象外とされている場合が多いのである。このうち、主なものを挙げれば、勤務評定の実施の適用除外(人事院規則一〇-二、第三条第四号)、営利企業への就職の許可不要(人事院規則一四-四、第九項)、営利企業の役員との兼業の許可不要(人事院規則一四-八、第五項)、服務の宣誓の免除(職員の服務の宣誓に関する政令第一条第一項)等である。

以上の通りであるから、非常勤職員の任期を期限の定めのないものとすることは、実質的には国公法に定められた成績主義によらずして常勤職員を任用することとなり、同法を潜脱し、ひいては総定員法の規定も潜脱する結果となる。また定員内職員と定員外職員とでは、その職の恒常性については本質的に異なるものである以上、定員外職員たる非常勤職員が、任命権者の措置なくして常勤職員と化することがないのはいうまでもない。

四  抗弁に対する原告の認否及び反論

1  室工大学侵が原告の当初の採用に当り被告主張の如く、定めたことは認めるが、その余の事実は争う。

2  室工大学長の原告に対する本件任用行為についてはその任期を定めた部分は無効である。

(一)(1) 即ち、国公法には、一般職に属する国家公務員を任用する場合、任期を定めることが出来るか否かの明示的な規定はないが、その身分を保障し、安んじて職務に専念させ、もつて公務の能率的運営に資するべき国公法第一条第一項に定めた同法の制定目的に鑑みるならば、少くとも恒常的に必要な官職に就くべき常勤の職員については、期限の定めなしに任用することを原則とすることが同法の趣旨であり、したがつて職員の「任期を定めた任用」は、それを必要とする特段の事由が存し、かつその任期を定めることがその建前の由つて立つ趣旨に反しない場合に限定して許されると解すべきである。

人事院規則八-一二(職員の任免)第一五条の二が「恒常的に置く必要のある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任用してはならない」と規定したのは、正にこのことを常勤職員につき具体化したものにほかならない。

更に、右の趣旨からすると、人事院規則の期限付任用禁止の原則が直接には常勤職員につき規定しているとしても、その前提として常勤職員と勤務実態を同じくする非常勤職員の存在を基本的に否定していると解さなければ無意義になるから、右の解釈は、非常勤の職員であつても、勤務の実態が常勤のそれと異なることがない場合においては等しく適用されるべきである。恒常的な業務に従事する職員が、身分の不安定によつて安んじて職務に専念できず、業務の能率的運営が阻害ないし停滞することは、常勤たると非常勤たるとによつて何ら異るところはないからである。

又人事院規則八-一二(職員の任免)第七四条第一項第三号、第二項は、任期を定めた採用ないし日々雇用の職員の存在を前提としているが、国公法附則第一三条に徴するも、そのことは前記の原則に実質上牴触しない限りで認められるに過ぎないものである。

(2) 原告は、形式上日々雇用という任用形態の非常勤職員として任用されたものであるが、その勤務実態は「常勤職員のそれと全く同一のものである。原告は、室工大会計課事務補佐員用度係員として、定員内の常勤職員と同じ職場、同じ職務条件で同じ業務すなわち、つぎのような恒常的な業務に従事していたのである。

(i) 補助簿の作成と管理

すなわち、室工大の各裸で購入する物品を帳簿に購入年月日、購入先、購入金額を記載し、納入物品と未納入物品に分類し、集計表に添付して毎日決裁する。

(ii) 学内電話、電報代金の回収・支払

学内四ケ所に設置されているピンク電話の代金回収を毎週一度行い一ケ月間保管し請求がくると支払う。また市外通話料金について電々公社から請求された電話料金を公用と私用に分類し、私用の分は交換室からくる台帳に基づいて各個人別に算出して合計する。更に七局線(四四-四一八一~七)毎に集計し、その金額と電々公社からの請求額と合致するかどうか調査する。

電報についても、電話と同様の手順で集計し、分類し整理する。電話および電報に関するこれらの集計、分類等が終了した後電々公社に行つて請求書を公・私用別に再度発行してもらい、私用の分については、個人に対して請求する等。

(iii) 予算差引簿の作成および管理

月末に締めた収支累計を各課(科)毎に複写し、各課(科)へ配布し照合する。

(3) したがつて、本件の場合、原告は任期一日、任用予定期間三〇日間とする非常勤職員として採用されたものであるが、原告の勤務実態は、室工大会計課事務補佐員用度係員として、同大学の恒常的な業務で、且つ同大学の運営上必要不可欠な業務に従事する常勤的職員であるから、右の解釈のとおり期限の定めなしで採用されるべきであり、これに対して任期を一日、任用予定期間を三〇日間とした期限の定めは、その効なく、もともと期限の定めなしに任用されたものと解すべきである。

(二)(1) なお被告は、「非常勤職員を任期を定めて日々雇用することは国公法第三三条の例外として同法上当然に許容されているから、本件の任期の定めも有効である。」と主張している。

しかし、被告の右主張は、国公法第一条第一項に盛込まれた国家公務員の身分保障の趣旨からして許されないものであり、前記のように「期限を定めた任用」はきわめて限定された例外的な場合にしか認める余地がないのであり、更に、国公法附則第一三条は、法律又は人事院規則によつて職務と責任の特殊性に基づき、国公法の特例を設けることを規定しているが、同時にこの場合も「その特例はこの法律第一条の精神に反するものであつてはならない。」と規定するから、同法の根本基準の一つである公務員の身分保障の原則に反する特例を設けることが出来ないのは当然であり、従つて、恒常的に置く必要のある官職に充てるべき職員を日々雇用という任用形態でなしうる旨の特例を法律又は人事院規則で設けても無効であるというべきである。

そしてまた、国公法に基づく人事院規則八一一四(非常勤職員等の任用に関する特例)の規定それ自体も、職員の採用の方法の問題であつて、競争試験又は選考によらないで任用された者が、同法上の根本基準の一つである身分保障を奪われてよいという根拠には全くならないうえ、人事院規則八一一二(職員の任免)第七四条第一項第三号、同条第二項も国公法の根本基準の一つである身分保障の原則を破る根拠に全くならない。

(3) 常勤職員との比較から考えても、恒常的に置く必要のある官職に充てられる職員につき、日々雇用の任用形態としての非常勤職員が許されるとすれば、かかる職員は公務員としての義務は課せられるにもかかわらず、身分保障の点では、任用更新拒絶により自由にその地位を失わしめることを許容することになるから、身分保障を得られないことになり、常勤の一般職の職員と同様の恒常的業務に従事し、かつての勤務の実態も同一であるにもかかわらず、「非常勤の一般職の職員」という身分のために、不当に差別をうけることになる。

これは、明らかに国公法第一条第一項の根本基準の一つである身分保障に反し、かつ、憲法第一四条の法の下の平等の原則に反し、憲法第二七条の労働者の権利を侵害する。

(3) 更に被告は、「日々雇用という任用形態が有効であると解しても、何ら公務員の身分保障をうばわれるものではなく、任用形態と身分保障は別個の問題である。」と主張しているが、これは全くの形式的解釈論にすぎず、国公法第一条第一項の趣旨、目的を没却したものであり、是認できる余地がない。もし、実際上の必要性だけを強調して、期限の定めのある任用形態による恒常的な業務に従事する非常勤の一般の職員を広く任用するならば、国公法第一条第一項の趣旨・目的は全く無視されてしまうであろう。

五  原告の再抗弁

1  人事院規則八-一二(職員の任免)の第七四条第二項は「日々雇い入れられる職員が引き続き勤務していることを知りながら別段の措置をしないときは、従来の任用は同一条件をもつて更新されたものとする」と規定するが、これは同条第一項第三号(期限付任用者の任期満了に伴う当然の退職)の例外として、日々雇用の一般職の職員の場合には、任期期間満了のみでは当然に退職にならず、むしろ、任用が自動更新されることを明らかにした規定である。したがつて、右の規定が適用される地位にある原告は、同項の「別段の措置」すなわち、任命権者の任用更新拒絶がなければ、当然に従前の任用が同一条件をもつて自動更新され、従前と同様の法的地位をもつのであり、原告のこの法的地位を奪つたのは、人事院規則八一一二(職員の任免)の第七四条第二項の「別段の措置」すなわち、任命権者の任用更新拒絶にほかならない。

即ち、原告は、任命権者の任用更新拒絶という法的原因によつて、任用の自動更新がなくなり、その結果として「任期の満了」という形式をとつて、職員たる地位を失つたものである。

そこで、本件任用更新拒絶の法的性質について考えてみると、本件任用更新拒絶は人事院規則八一一二(職員の任免)第七四条第二項の「別段の措置」に該当し、任命権者の特別な意思表示であつて、その意思表示の結果として、任期満了による退職という法的効果をもたらすのであるから、一種の法律行為すなわち、任命権者の行政処分としての法的性質を有するものと解すべきなのである。

そして、本件任用更新拒絶は任命権者の行政処分であり、その行政処分が諸事由に差づき無効である場合には、人事院規則八一一二(職員の任免)七四条二項の「別段の措置」が無効となり、その結果「任期満了による退職」という法的効果も発生しないというべきであり、本来、任用更新拒絶という行政処分が、任命権者の白由裁量に属するかどうかは措くとして、仮にそうであるとしても、不当労働行為や裁量権の濫用に該る場合は、任命権者の任用更新拒絶の行政処分は無効となろと考えるべきである。

2  国公法第一〇八条の七は「職員は、職員団体の構成員であること、これを結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと、又はその職員団体における正当な行為をしたことのために不利益な取扱いを受けない」と規定し、職員の地位向上のため団結権等を保障している。

室工大は昭和四三年頃から、同大学に勤務する職員で組識されている同大学職員組合(以下、単に職員組合という)に対し組合脱退の強要と組合員に対する不利益扱いを強めてきていたが、その攻撃の重点は、とくに同大学事務局に勤務する職員の組合員に対して向けられ、その結果として職員組合の組合員数は、昭和四三年の約一五〇名から、昭和五〇年一月現在九〇数名となつた。特に室工大事務局のうち、会計課では、現在組合員は非常勤の女子職員二名だけであり、庶務課でも組合員は数少く、学生部には組合員がいないという状況をつくり出した。

原告は昭和四九年三月二日同大学職員組合に加入し活動をはじめた。室工大は、原告が職員組合に加入し行動していることを知るや、原告を職場から追放するという不利益を課し、あわせて他の職員に対するみせしめとして、もつて同大学の職員組合活動を弱化させることを意図し任期満了に籍口して、原告につきことさら更新拒絶をしたものである。従つて、本件任用更新拒絶の行政処分は明らかに国公法第一〇八条の七の規定に違反する不当労働行為の意思にもとづく行為に該当し無効である。

3(一)  原告はもと北海道庁胆振支庁に勤務していたが、昭和四九年二月七日、室工大から同大学勤務の誘いをうけたので同年二月上旬、室工大に対し原告の履歴書を郵送し、次いで二月中旬、同大学会計課長室において約四〇分間会計課長および同補佐の二名から面接を受けた。右面接の際、原告は胆振支庁における勤務の都合上、四月一日からの勤務を希望したが、会計課長が「三、四月は会計課としては決算期であり一番忙しいので明日からでも来てほしいが、せめて三月一日からぜひ来てほしい」旨強く申しのべたため、原告はやむなく、同年三月一日から同大学に勤務することを承諾した。

更に任用予定期間については、会計課長が、「継続して日々雇い入れることを予定する職員については、昭和三六年二月二八日閣議決定で必ず発令日の属する会計年度の範囲内で任用予定期間を定めることとなつている。」と説明し、原告の任用予定期間が一応昭和四九年三月一日から同年三月三〇日までの三〇日間とされたのであり、それ以降の雇用についても、同課長は、同年四月一日以降非常勤の一般職の職員として採用する旨確約したのである。

(二)  室工大においては、昭和四九年七月末現在約三七〇名いる職員のうら、原告と同じ日々雇用の形で任用されている職員が三五名おり、そのうち、最長勤務者は約九年余、平均四年余の勤務を継続している。

次に原告と同様に、昭和四八年会計年度内で任期の切れる非常勤職員のうち、室工大へ昭和四九年四月一日以降も継続して雇用されることを希望した職員は、原告を除く全員が同大学に継続して雇用されているのである。とくに、昭和四八年会計年度内に室工大の勤務をやめた非常勤職員は原告をも含めて一二名存在するが、その内訳をみると、三名は定員内職員に採用されたものであり、残り九名のうち原告を除く八名はすべて本人が退職を希望したものである。要するに、昭和四九年四月一日以降も継続勤務を希望しながら、意に反して拒否されたのは、三一名中原告ただ一名であつた。

しかも、室工大は、昭和四七年一〇月一二日同年度第六回教授会において「現在在職している臨時職員を解雇することはしない。」と決めているのであり、室工大においては、日々雇用および任用予定期間の定めがあつても全くそれらは形式にすぎず、任期の満期が到来しても、本人自身の退職したい旨の意思表示の存在しない限り、継続して雇用される慣行が存在しているということができる。

(三)  原告の従事していた電話料金の回収、支払いおよび市外通話料金の公・私用別分類、請求支払い、補助簿の作成と管理等は、室工大において必要かつ日常継続的に行われなければならない恒常的業務である。このことは、原告の前任者小川ゆみ子が、昭和四二年度以来約六年余の長期間にわたつて右業務に従事してきており、同女の退職後、直ちに原告の任用がなされていることからも明らかである。

(四)  以上の事実に鑑みると、最初の任用にあたつて会計課長が四月一日以降の継続任用を約束したのにこれを破棄した事由、同大学が三一名のうら原告だけを特別に取扱かつた事由、とりわけ前記の教授会決定に違反してまでも原告だけを特別に遇して任用更新しなかつたことにつき、合理的説明がない限り、裁量権濫用の違法があると解さざるを得ない。

六  再抗弁に対する被告の答弁及び主張

1  再抗弁事実のうち、原告が昭和四九年二月ころ北海道胆振支庁に勤務していたこと、原告が同年二月上旬履歴書を室工大に送付し、同月中旬に同大会計課長および同課長補佐の面接を受けたこと、原告の従事していた業務が室工大にとり恒常的な業務であることは認めるが、その余は争う。

2  室工大学長が原告を採用するに至つた経過は次のとおりである。

室工大会計課長は、同課用度係員訴外小川ゆみ子から昭和四九年一月中旬退職の意思表示があつたので後任の補充について事務局と折衝を行つていたが、容易に結論を得られぬまま、年度末の多忙期を目前に控えたため、三月一か月間のみ日々雇用の非常勤職員を採用してほしい旨庶務課長に申し出た。これに対し、同大学庶務課長は事務局長と相談のうえ、同局長より三月一か月間のみ日々雇用の非常勤職員を採用することの承認を得て会計課長に適任首の人選を依頼した。同年二月上旬、会計課長は、室工大工学部(夜間)事務部の時間雇用の非常勤職員小川優子を通して原告の意向を聞いたところ(小川優予は原告の知人である。)原告が同大学に就職を希望する意向であつたので、履歴書を送付するよう依頼した。同年二月中旬、会計課長は履歴書を受理し、庶務課長に原告の履歴書を提示したうえ同年二月一六日午後一時ころ、他に会計課長補佐一名を立ち会わせ、原告に対する面接を実施した。

この席上会計課長は、原告に対し、「会計課は三月四月は決算期で繁忙となるため三月から勤務してもらいたいが、四月以降については、定員削減、非常勤職員人件費及び予算の関係で何とも言えない。従つて三月一か月間ということで勤務願いたい。」と述べたが、原告は、「現在勤務している胆振支庁は、通勤時間もかかるので、四月以降も室工大に勤務したい。」旨述べた。これに対し同課長は、「この件については前のような問題もあり、四月以降の採用については約束できないので、三月一日から三月三〇日までの任用ということでよいか。」と念を押したところ、原告はこれを了承したのである。そして庶務課長は、同年三月一日庶務課人事係長立会のもとに、原告に対し、任期は三月三〇日までである旨を申し述べ辞令を交付した。またこの際、同係長も、原告に対し念のため「任期は三月三〇日までであり、もしも四月一日以降も採用するのであれば改めて話す。」旨申し添えたが、原告はこれらのことを了解したうえで辞令の交付をうけたものである。

原告が室工大に任用されるに至つた経緯は、以上の通りのものであり、任用予定期間が三月三〇日までであることについては、原告はこれを十分了解のうえ被告に任用されることとなつたのである。

原告の前任者小川ゆみ子は、室工大会計裸に昭和四二年四月から非常勤職員として勤務し、翌昭和四三年四月より用度係に勤務することとなり、以来昭和四九年一月一九日退職するに至るまで、一貫して同係に勤務していた。用度係長としては、同人が用度係に配属された昭和四三年四月当時は、前記に述べた原告の従事していた事務と同程度の、用度係の事務のうち最も簡易な事務及び他の係員の補助的事務を担当させていたが、経験を経るにしたがつて、原告が全く関与していなかつた物品管理事務、予算差引関係事務のうちある程度の知識、経験を必要とする事務も担当させるようになり、また電話料関係事務もその大部分を単独で行なわせていた。従つて原告の従事していた業務と、その前任者小川ゆみ子の従事していたそれとを比較した場合、その質・および量に多大な相違があるのである。

室工大は、毎年四月一日より翌年の三月三一日が一会計年度とされ、その会計業務は各会計年度毎に区切られるので毎年三月が決算期となり、この時期の用度係をも含めた会計課の事務量は著しく増大する。すなわち、予算の執行は、年間を通じて計画的に進められるべきものではあるが、教育機関の特殊性及び年度途中における諸情勢のための計画変更の調整等により、毎年二月三月の年度末には、他の月に比較し、物品調達等の業務が増大するのが通常であるが、加えてこの時期における物品の購入については、常に予簿残額を把握し、確認の上措置しなければならないため、予算差引業務も迅速に処理することが要求され、また四月の新年度に向け各種の契約締結の準備も加わることとなるのである。

昭和四九年一月中旬小川ゆみ子の退職の意思表示があつて以来、室工大では来たるべき昭和四九年会計年度末の用度係の事務量の増大に備えて、同人の後任の補充を考慮していた、しかしながら他方では、同人の後任補充としての非常勤職員を、来年度以降も長期間にわたり任用することができるか否かについては予算上の制約から長期的な見通しを立て難かつた。

すなわち室工大では、数年来、非常勤職員人件費の大学予算に占める割合が膨張してきたことが主たる原因となつて、大学予算のひつ迫状態が現出しつつあつたのである。そこで、同大学では、小川ゆみ子の後任を全く補充せずにおくか、とりあえず昭和四八会計年度内のみに限り日々雇用の非常勤職員を採用するか、あるいは時間雇用の非常勤職員を採用するか等の方向で検討を続けたが容易に結論を出すことができず、一方前記の如く季節的要因による会計課の事務の増大を目前に控えたため、昭和四九年度以降の方針は留保したまま原告を昭和四九年三月の一か月間のみを任用予定期間として採用したものである。

第三証拠関係<省略>

理由

一  被告による原告の任用について

被告国の文部大臣は、その部内である室工大学長に対し、同大学の職員についての任命権を委任していたが、同大学長金森祥一は昭和四九年三月一日原告を被告の一般職職員たる同大学会計課事務補佐員として、かつ日給(勤務八時間につき)金二、四二五円を給するものとして採用したこと被告は昭和四九年四月一日以降原告が被告の一般職職員たる地位にあることを争い、かつ原告からの勤務の提供を拒絶し、給与の支給をしないでいることは、当事者間に争いがない。

二  原告の任用形態

1  ところで、室工大学長は、本件任用につき、その任期を一日とし、任命権者たる同大学長において別段の措置をしない限り、任用が日々更新される期間としての任用予定期間を昭和四九年三月三〇日までとしてなしたものであることは、当事者間に争いがない。

2  いわゆる日々雇用される非常勤職員の期限付任用の適法性について

(一)  国公法第三三条、第三六条は、すべて職員の任用は、同法及び人事院規則の定めるところにより、原則として競争試験により、例外的に選考によつて行われるものと定め、国公法附則第一三条は同法第一条の精神に反しないものであることを要件として、一般職に属する職員に関し、別に法律又は人事院規則を以てこれを規定することができる旨定めているところである。

そして人事院規則八-一四(非常勤職員等の任用に関する特例)は、非常勤職員の採用は競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができる旨を定め、人事院規則八一一二(職員の任免)第七四条第一項第二号第三号は、日々雇い入れられる職員のあることを明らかにしているところである。

従つて、室工大学長は同大学の職員につき日々雇い入れられる非常勤職員を採用し得る余地のあることが明らかであるが、その場合においても国公法第一条の精神に反しないものであることを要するものといわなければならない。

(二)  そこで次に日々雇い入れられる非常勤職員につき別段の措置をしない限り、任用が日々更新される期間としての任用予定期間を定め得るか否かにつき検討する。

(1) 一般職に属する国家公務員の任用に当り、これに任期を定めることができるか否かについて国公法には明示の規定はなく、ただ、人事院規則八-一二(職員の任免)第一五条の二は、原則として、任命権者は臨時的任用及び併任の場合を除き原則として恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を、任期を定めて任用してはならない旨規定するところである。

しからば恒常的に置く必要がある官職につき非常勤職員を充てることができるか、若しそれができ得るとした場合、任期を定めて任用することができるかが問題となる。

官職とは、一人の職員に割当てられる職務と責任を意味し、官職を占める自然人たる職員とは全然別個の観念であることはいうまでもないところであるが、恒常的に置く必要がある官職であるからといつて常に必ず常勤職員を任用しなければならないものではなく、その官職却ち職務と責任の内容如何によつては、殊に特別の知識・技能又は経験を必要としない補助的代替的、かつ単純な業務を内容とするものについては、非常勤職員を以て充てることができないわけではない。

(2) そこで進んで、恒常的に置く必要のある官職に充てるべき非常勤職員につき任期を定めて任用し得るであろうか。一般職職員をどのような形で任用するかは、結局、どのような任用の形態を採つたときに、全体の奉仕者たる国家公務員が、国民に対し公務の民主的、かつ能率的な運営を提供できうるかの観点から決定されるべきことであり、従つて職員を任期を定めて任用することが許されるか否かも、この観点から決定されるべきことである。そして期限付任用がそのために公務の民主的、能率的運営を阻害するような場合には、期限付任用は許されないものといわねばならない。しかし他方、期限付任用を原則的、一般的に禁止しなければならない合理的理由を見出すことはできないから、常勤官職であれ非常勤官職であれ、その任用に任期を定めることは、同法上原則として許されないものと解すことは相当でない。また人事院規則八一一二(職員の任免)が「恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任用してはならない。」と規定(この規定は、非常勤である原告には適用ないが)していることも、以上の趣旨から出たものと解される。蓋し恒常的に置く必要がある官職に対し、期限付任用の常勤職員を充てることは、一般的に職務の習熟を妨げ、又は職務専念を不安定にきせることがあり、その結果、公務の能率的運営を阻害すると考えられるがためである。したがつて、官職の内容が専門知識や経験を必要とするとき、行政の一貫性の保持、及び責任体制の維持を必要とするときなどは、恒常的に置く必要のあるものとされ、かつ常勤職員を以て充てられ、従つて原則としてかかる職員を任期を定めて任用することは許されないこととなろうが、官職の内容たる業務が恒常的にあるとしても、それが特別の習熟、知識、技能又は経験を必要としない補助的、代替的なものであるときには、常勤職員を以て充てられなくとも、即ち期限付任用の非常勤職員を充てても、公務の民主的、能率的運営の提供に阻害することがないといえるから、特別の必要性のある場合には、そのため非常勤職員を期限付で任用することも許されるものと解すことができる。そしてかかる業務につきその仕事量の増大等緊急、臨時の必要があり、かつ職員において任用が期限付であることを同意している如き場合には、右特別の必要があるものということができる。

(3) 国公法は第五九条が条件付任用について、同法第六〇条が臨時的任用について、それぞれその任期を規定しているところである。同法第五九条の条件付任用の規定は、職員の職務遂行能力の有無の判定をするための必要から六か月の条件付採用を認めたものであるが、右の目的からして期限を付することが特に必要な場合であるから、この規定があるからといつて、国公法が期限付任用をこの場合にのみ特に限定的に許したものと解することはできない。また同法第六〇条の臨時的任用の規定は、常勤職員を充てるべき官職につき欠員を生じた場合において、緊急の必要性のある場合等に特例として同法第三三条第一項の成績主義の原則によらず、その欠員を臨時的に補充するため特則を定めたに過ぎないものと解される。したがつて、その規定が存するからといつて、一般職に属する非常勤職員の期限付任用が原則として禁止されたものと解することはできない。

原告は、国公法により定立が予想される国家公務員に適用すべき各般の根本基準につき、同法第一条第一項が、括弧書で「職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む」と付け加えていることを挙げ、これを根拠として国公法が、公務の民主的、かつ能率的運営をはかることを目的とするだけでなく、職員の身分保障をはかることを特段に重視し、これをも一つの根本目的としているとし、この趣旨からして、期限付任用は、常勤、非常勤職員を問わずそれを必更とする特段の事由が存し、かつその任用を定めることが身分保障の趣旨に反しない場合に限定され、一般的には禁止されている旨主張する。しかしながら、身分保障とは、国家公務員としての身分を有する間、国公法の定める事由又は手続によらなければ、その意に反して分限又は懲戒処分を受けることがないことを意味するものであつて、任用された後の問題であるから、公務員に任期を付することの許否とは、分野を異にするものである。

また、原告は、常勤の一般職の職員と同様の恒席的業務に従事し、かつその勤務実態も同一である場合に、非常勤職員につき、期間を定めて任用することは常勤職員との関係で不当な差別を受けることになり、憲法第一四条の法の下の平等に反し、また、憲法第二七条の労働者の権利を侵害すると主張する。しかし、本件において、原告の従事していていた業務が原告主張の如きものであるかはともかくとして、常勤職員と非常勤職員の任用及び勤務は、その根拠及び手続を異にしているのであることに徴すれば、これをもつて不当な差別ということはあたらず、憲法第二七条は雇用形態につき直接規定しているものではないので、同条に違反する旨の主張も理由がない。

3  原告の官職及び期限付任用の特別の必要性の有無について

そこで次に、原告の官職と前記期限付任用の特別の必要性の有無につき検討する。

(一)  任用の経緯

(1) <証拠省略>を総合すると、以下の事実を認めることができる。

小川ゆみ子は、昭和四二年四月二二日以降日々雇用の非常勤職員として室工大会計課に勤務し、用度係の職務を担当していたが、昭和四九年一月出産のため退職することを申出て同月一九日退職するに至つた。このため、会計課では、右小川ゆみ子の担当していた事務につき新たに職員を補充するか否かにつき検討する必要が生じた。室工大では当時、日々雇用の非常勤職員が三七、八名程存在しており、このための人件費の増大にともない研究費等が圧迫されるという財政上の問題が生じていたうえ文部省からも、右のような財政上の観点から日々雇用の非常勤職員につき昭和四六年七月一日現在の員数を超えないようにとの指示が出されていたので、室工大としては、日々雇用の非常勤職員が退職した場合にこれを補充しなかつたり、また、時間雇用の非常勤職員を採用するということでこの人件費の増大を抑える方策が考えられていたのである。このような状態であつたことから、小川ゆみ子の後任にあたるべき非常勤職員の採用についても、次年度たる昭和四九年四月一日からの雇用形態等について確定することができないまま、物品購入事務の増加、物品購入のための予算差引業務の迅速処理の必要、次年度契約締結の準備の必要などのため、年度末の会計課の繁忙期を控え、とりあえず事務局長、庶務課長及び会計課長の協儀により、任用予定期間を昭和四九年三月三〇日までに限つて小川ゆみ子の後任にあたる日々雇用の非常勤職員を任用することが内部的に決定された。以上の事実が認定でき右認定を覆すに足る証拠はない。

<証拠省略>中には、室工大は小川ゆみ子の後任にあたる者の補充という意味からして、小川ゆみ子の後任の採用をすることを決定した当初から、昭和四九年四月以降も日々雇用の非常勤職員として任用が継続されることが内部的に決定していた、との部分が存在するが、右認定事実に照しこれを認めることができない。

(2) <証拠省略>によれば、以下の事実を認めることができる。

会計課長は、かねて室工大二部の事務局に時間雇用の非常勤職員として勤めていた小川優子が、待遇などにおいて時間雇用より優つている日々雇用の非常勤職員に転換したいとの希望を有していることを聞知していたことから、小川優子に対し小川ゆみ子の後任にあたる会計課の日々雇用の非常勤職員として勤めるよう勧奨した。そして、会計課長はこの日々雇用の勤務条件につき勤務時間、給与等の具体的説明をなしたが、その任用予定期間については特段にこれを明示しなかつた。しかし、小川優子は、勤務時間との関係などから、結局、同人の夫と相談のうえ、この話を断つたうえ、かねてからの知り合いで会計事務の経験のある原告の存在を会計課長に知らせた。原告は昭和三八年四月から伊達信用金庫に勤務していたが、昭和四四年一月頃結婚のため退職し、次いで昭和四六年一月から同年三月まで、及び同四六年九月から同四七年八月まで、夫々北海道胆振支庁経済部林務課に臨時技能員として期限付で採用されたが、右期間の経過にともないそれぞれ退職していた。そして、原告は三度び昭和四八年三月右支庁において予定期間同四九年二月末の定めで採用された。従つて原告は昭和四九年二月当時においては、同年四月から更に胆振支庁において雇用更新される可能性も存在していたものの、他方原告は、その雇用関係が継続的で身分的に不安定であり、賞与や退職金も支給されないなど待遇面での不満もあつたことに加え、胆振支庁への通勤時間が一時間近く必要であつたことから、他に適当な職を捜していた。そして、原告は、昭和四九年二月七日前記小川優子から室工大会計課で日々雇用の非常勤職員を募集していることを聞き、同人から、給料は日額二、〇〇〇円以上でボーナスも常勤職員より少ないものの年二回支給されること、交通費も大学から二キロメートル以上離れていれば全額支給されること、社会保険にも加入できること、勤務期間も自分の都合でやめない限りいつまでも勤められること等の説明を受けたので、これに応募することを決意した。

以上の事実が認められ右認定を左右するに足る証拠はない。右認定によれば、小川優子は、会計課長からの説明においては、日々雇用における任用予定期間が明示されなかつたが、昭和四九年度以降についても日々雇用が更新されるものと軽信し、更に原告に対する説明においても自からの場合と同様と考え、「自分の都合でやめない限りいつまででも勤められる。」と説明したものと考えられる。しかし、<証拠省略>によれば、小川優子においてはこの当時近い将来家庭に入り退職することが予想されていたこと、そして、現実に昭和四九年六月一〇日に室工大を退職していることが認められるところであり、したがつて、会計課長が小川ゆみ子に対する説明の際に任用予定期間を明示しなかつたこともこの点を見越してのものと考えることができ、前記認定の事実に照らし右説明において任用予定期間の明示がなかつたことから、原告の場合においても当然に任用更新が予定されていたものと結論することはできない。

(3) <証拠省略>によれば、原告は昭和四九年二月一六日会計課長及び会計課長補佐から面接を受けその際に他の勤務条件に加えて、その任期は一日とし、室工大学長において別段の措置をしない限り日々更新される期間としての任用予定期間は右同年三月一日から同月三〇日までの一か月であること、そして、同年四月以降の任用については再び更新されることもあるが、予算の関係もあり未だ確定していない旨の説明を受けた。そして、大学当局は、原告を右非常勤職員として採用する旨決定し、右同年二月二八日電話でこの旨を原告に連絡した。原告は同年三月一日室工大庶務課長室において庶務課長より「事務補佐員(室蘭工業大学会計課)に採用する。任期は一日とする。ただし、任命権者が別段の措置をしない限り昭和四九年三月三〇日まで任期を日々更新し、以後更新しない。日給(勤務八時間につき)二、四二五円を給する。」と記載された辞令を読み聞かされたうえ交付され、更に庶務課人事係長より任用予定期間は右同年三月一日から同月三〇日までの一か月となること、次年度の四月一日以降の雇用については予算などの関係から未だ確定していないこと、雇用が継続された場合においても日々雇用でなく時間雇用の非常勤職員となることがあるとの説明を受けた。以上の事実が認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

原告は、会計課長が右面接において次年度にあたる昭和四九年四月一日以降の雇用につき日々雇用の非常勤職員として任用を更新する旨の確約を与えたと主張し、<証拠省略>中には、これに副う部分が存するが、同結果中には更に、右面接の際原告は会計課長から、任用更新がなされた場合において日々雇用から時間雇用にその雇用形態が変更される可能性がある旨示唆されたとの部分が存するところであり、前記認定の事実に照しても会計課長が原告に対し右確約を与えたとの部分はたやすく措信し難い。

(二)  原告の職務内容及び期限付任用の必要性

(1) <証拠省略>を総合すると以下の事実が認められる。

小川ゆみ子は、昭和四二年四月二二日から翌四三年三月三〇日まで日々雇用の非常勤職員として会計課総務係の事務補佐員に任用されたが、次いで昭和四三年四月一日からは同様に会計課の用度係の事務補佐員に任用され、以来、電話料金関係事務(電々公社から請求された市外通話料金につき、交換室から来る台帳に基づいて公私別及び各個人別に分類算出して集金すること)、物品在庫管理事務並びに掃除お茶汲み等の雑用に従事し、その後昭和四六年ころからこれに加え補助簿及び予算差引簿の作成事務に従事するようになつた。小川ゆみ子は前示の如く昭和四九年一月一九日に退職したが、その以後これら事務のうち、物品在庫管理関係は中川事務官に、補助簿及び予算差引簿作成関係は長沢事務官に引継ぎがなされて処理されていた。原告は、その任用後これら事務のうち、電話料金関係、補助簿及び予算差引簿の作成、並びに雑用を職務として割当られ、山崎調達主任及び長沢事務官の指導のもとにその処理にあたつたが、伝票の整理、帳簿の記帳という程度の仕事に止つていた。そして原告は、物品在庫管理事務については全く担当しなかつた。以上の事実を認めることができ他に右認定を左右する証拠はない。

(2) <証拠省略>並びに弁論の全趣旨によれば、室工大学長は昭和四九年四月一日以降の会計課用度係における非常勤職員の任用については、桜井緑を任期を昭和五〇年二月二四日から同年三月三一日まで及び同年四月一日から同月三〇日まで夫々時間雇用の非常勤職員として任用し(同人はなお昭和五〇年六月一二日から同年九月六日までを任用予定期間として会計課の日々雇用の非常勤職員に任用され、また右同年九月二五日から同年一二月二七日を任用予定期間として室工大工学部理科教室事務室の同職員に任用されている。)津川知恵子を任期を昭和五一年一月二一日から同年三月三一日まで時間雇用の非常勤職員として任用し(右同年二月五日退職)、柄沢干恵子を任期を右同年二月二四日から同年三月三一日まで及び同年四月一日から同年五月三一日まで(同月一三日退職)夫々時間雇用の非常勤職員として任用し、沢口真貴子を任期を右同年五月一三日から同年八月三一日まで時間雇用の非常勤職員として任用したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

(3) 以上のような事実を前提として、原告の担当した職務内容及びこれに伴なう責任によつて、原告の充てられた官職がそもそも恒常的に置くべき官職にあたるか否かにつき検討する。

原告の担当した前記職務のうら、補助簿及び予算差引簿の記帳事務が毎日存在しそのため恒常的に処理しなければならないことは明らかである。しかし、恒常的業務の存在することから当然にこれを処理するのに常勤職員をあてなければならないものではないことは前示のとおりである。そして、原告の右仕事の性質内容は、帳簿の記帳、伝票の整理という程度の仕事にとどまつていたことは前示の通りである。そして、これらの事務処理は、経理、会計上の特別な又は専門の知識や、国の会計法規上の特別の知識が必要であるとはいえず、計算事務についての若干の知識がありさえすれば上司からの助言、指導により常にその処理が可能であるものと考えられるところである。そして原告は前示の如く現に山崎調達主任、長沢事務官の指導助言によりその事務を処理しているのである。<証拠省略>によれば原告は右補助簿及び予算差引簿の作成事務につき二、三日でおおよそのことがわかつた程であつたことが認められる。また、電話料関係事務については、前示の如く電話料金の公私の分類、集計、集金などにとどまるものである。<証拠省略>によれば、右処理のためには学内にいる職員の人名を覚える必要があり、右事務を独力でできるまで三か月程度は必要であつたことが認められるが、人名を覚えること自体は何ら特別の専門知識と係わりを持つものではなく、たとえ右のような期間が事務の習熟のため必要とされるとしても、その内容は前示の如く単純な集計分類に止るものであるから、その処理に習熟性が不可欠のものであるというものではない。

このように原告の担当した職務及び責任を検討してみると、その職務の性質は単純な事務の補助にとどまるものであり、まして、その負担する責任という面からは原告は直接に上司たるべき者の指導、助言に基づいて仕事していたのであり、したがつて原告の担当した業務は恒常的に存する性質のものであるとはいえ、原告の占めた官職は恒常的に置く必要があり、かつ常勤職員を以て充てられるべきものであるとは、いい難く、むしろ代替性があり、従つて非常勤職員を以て充て、かつそれが期限付の任用によるものであつても、公務の民主的能率的運営の提供を阻害することがないものということができる。

そして室工大は昭和四九年三月一日から同月末にかけて年度末の事務繁忙期を控えていたこと、原告は本件任用に当り、その内容が期限付であることを了知していたことは前示のとおりである。

そうして見れば、本件において室工大学長が原告の任用に当り期限付でなしたことはその特別の必要性があつたから適法であつたものということができる。

4  任期満了による退職について

人事院規則八一一二(職員の任免)第七四条第一項は、「任期を定めて採用された場合において、その任期が満了した場合、その任用が更新されないときは、職員は当然退職する」旨規定しているところ、室工大学長は本件任用につき昭和四九年三月三一日以降更新の措置をとらなかつたことは本件弁論の全趣旨により明らかであるから、原告は昭和四九年三月三〇日の経過を以て当然退職したものといわなければならない。

同条二項は、日々雇い入れられる職員が引続き勤務していることを任命権者において知りながら別段の措置をしないときは、従前の任用は同一の条件をもつて更新されたものとする旨規定するところであるが、これは日々雇用の職員が任期を越えて引き続き勤務した場合に、日々新たな任用行為がなくともそれがあつたものと看倣す趣旨、即ち任期満了による当然退職を妨げる要件を定めたに過ぎないものというべく、本件の場合原告は昭和四九年四月一日以降引き続き勤務したものではないから、同規定を適用する限りではない(なお原告については昭和四九年三月二日から同年三月三〇日までは日々新たな任用行為がなくともその間引続き勤務し、かつ室工大学長において予めこれを了知していたから右規定によりその退職の効果発生を阻止していたわけである)のみならず前掲<証拠省略>によれば、室工大学長は原告に対する本件任用に当り、昭和四九年三月三一日以降任用更新をしない旨予め告知したことが明らかである。

原告は、人事院規則八一一二(職員の任免)第七四条第二項の規定は、日々雇用の一般職の職員については、同条第一項第三号の例外として任期満了のみでは当然に退職にならず、むしろ任命権者の別段の措置即ち更新拒絶行為をまつて初めて退職するものであり、任用が自動更新されることを明らかにしたものである旨主張するが、かく解することができないことは前説示のとおりであるから右主張は採用することはできない。

三  原告は、日々雇用の職員については、任期満了によつては退職の効果は生ぜず、任命権者による別段の措置却ち更新拒絶の行為を俟つて初めて退職の効果が生ずるものであるとの主張を前提とし、本件においては任命権者である室工大学長が原告につき昭和四九年三月三一日以降更新拒絶をしたことは不当労働行為として国公法第一〇八条の七に違反し、又は裁量権の濫用に該り、無効であるから、結局、従前の任用が同一条件をもつて自動更新されたものというべきであると主張する。

しかし、任期を一日と定められた日々雇用の職員においては、任期満了とともにそれを要件として当然に退職となるものであり、ただ更新行為のあつたとき又は更新行為のあつたと看做されるときには右当然退職の効果発生を阻止するに過ぎないものであつて任命権者による更新拒絶行為を俟つて退職の効果が発生するというものではないことは前説示のとおりであり、しからば、本件において室工大学長が原告につき昭和四九年四月一日以降任用更新しなかつたことを以て行政処分とみることはできないから、その無効か否かを論ずる余地はない。

四  しかしながら、日々雇用の職員に対し任用更新をしないことにつき裁量の余地を逸脱したような場合、たとえば組合活動をしていることを理由として任用更新をしなかつたような場合、あるいは予算や仕事量の面から任用更新する余地がないわけではないのにことさらこれをなさず他の者を任用したりしたような場合には、この任用更新しなかつた行為が全体として違法と評価され不法行為の成立する場合も存するものと解するのが相当である。人事院規則八-一二(職員の任免)第七四条第二項の規定は、日々雇用の黙示的更新を認めており、その限りにおいて日々雇用の職員は継続して任用を受けることに対する期待を有しており、「別段の措置」がなされない限りこの期待は充たされる関係にあるところであるが、前示認定の経緯のとおり、室工大の財政事情等からして、大学当局において昭和四九年四月以降の原告の任用更新につき確定した方針が定められていたものではないところであり、原告の任用当時には、その雇用期間ないし雇用形態になお未確定な要素が存在したことは否定できないのである。したがつて、右のような方針が確定したことはない以上、かかる期待権ないし地位が被告により侵害されたものということができないことは明らかである。

また、原告は、室工大当局が原告を任用更新をしなかつたのは、原告が室工大の職員組合に加入したためである旨主張するところである。<証拠省略>によれば、昭和四三年の大学紛争ころから室工大職員組合の組合員数の減少したこと、とりわけ事務局部門においての減少が著しく、原告任用当時会計課における組合員は柴口みちる一名であつたこと、原告は本件任用の翌日の昭和四九年三月二日室工大職員組合に加入したこと、その後しばらくしてから、原告が組合のビラを読んでいるとき、山崎主任か「組合に加入したのか。会計課職員で組合に加入しているのは柴口みちると原告のみである。」と言われたことがあつたこと、以上の事実を認めることができる。しかしながら、職員組合の組合員数が減少傾向にあつたとしても、そのことから、本件任用更新をしなかつたことが原告が組合に加入した由をもつてなされたものと結論できるものではなく、また、山崎主任の右言動においても、単に事実を尋ねたにとどまり、それ以上の意図が存したものとまで認めることはできない。<証拠省略>によれば、原告は特段職員組合の活動を活発に行つたわけでもなく、これといつた活動をしていなかつたこと、会計課長ないし同課の主任等から、組合に加入してはならないとか、組合から脱退するようにとの指示や圧力が加えられたことはなかつたことが認められるところであり、結局、前示事実から、本件任用更新拒絶が原告が組合に加入した由をもつてなされたものと認めるには足らず、他にこれを認めるに足る証拠は存在しない。

ところで、<証拠省略>によれば、昭和四九年三月末時点で、次年度につき庶務課の常勤職員のタイピスト一名、非常勤職員二名の計三名の欠員が生じ、この補充の必要が生じたこと、そのため同月二七日に川内人事係長の外、庶務課長補佐、会計課長補佐が立会つて、職員採用の面接がなされたこと、その結果、教務課に非常勤職員を一名採用し、従前教務課に勤務していた非常勤職員がタイピストの資格をもつていたことから、これを庶務課のタイピストに配置換えすることになつたこと、したがつて、他の非常勤職員二名の欠員については、その時点でなお補充はされず、また、原告の後任についての補充もなされなかつたこと、以上の事実を認めることができる。

従つて、右の面接に会計課長補佐が立会つていたことから、右面接が原告の後任の補充を意図したものであるかの如く見えるところであるが、しかし、現実に原告の後任たる職員の採用がなされたわけではなく、また、他の部署に欠員が生じこれにつき補充がなされているわけであり、<証拠省略>によれば、室工大において、面接の際に会計課長ないし会計課長補佐が立会うことも一般的であつたものと認められ、右の面接が会計課の職員採用を予定し特別になされたものであつたとは断じ難い。

ところで、前記のように会計課における原告の後任にあたるべき任用は、昭和四九年四月時点ではなされず、その間原告の担当した事務は他の会計課員において分担して処理されていたこと、翌昭和五〇年二月二四日桜井緑が任期を同年三月三一日までとして時間雇用の非常勤職員として任用され、更に同年四月一日に同月三〇日までを任期とし、右任用が更新され同年六月一二日に同年九月六日までを任用予定期間として日々雇用の非常勤職員として任用された外、その後も四名程が任用されているが、これらにおいてはその雇用形態も日々雇用であつたり時間雇用であつたりして一定していないうえ、またその任用期間も長期に亘つて継続した例はなく、数か月程度にとどまつていることは前示のとおりである。このことからして、原告の担当した職務自体その内容及び量等において不変で確定したものではなく、その量の増減や他の職員との職務分担との係わりにより変動する余地があつたものと解され、<証拠省略>によれば昭和四九年四月期についても三月期と同様に会計課の繁忙期に含まれるものと認められるが、大学当局における職員配置並びに職務分担決定の行政的裁量の余地を無視することはできないことから、本件において原告を会計課職員に任用更新しなかつたことをもつて直ちにその裁量権の濫用ありということはできない。尤も<証拠省略>によれば、原告の任用更新しない旨の最終的決定は、昭和四九年三月二九日会計課長と庶務課長補佐との協議でなされたことが認められるが、してみると、前示のように庶務課に非常勤職員の欠員が生じていたのであるから、大学当局としてもこれにつき原告を充てることができないか十分検討すべきであつたものということができる。しかるに、<証拠省略>によれば、大学当局が原告を他の部署に充てることにつき十分な検討を加えたことはなく、単に原告の年令的関係から雇用に要する人件費が若干高くなるということ、当初から任用予定期間が一か月である旨原告に通告してあることを理由として、任用更新をしないこととしたものと認めることができる。ところで原告の任用につき人件費が若干高くなることは、そもそも当初の任用時点から了知していたはずのものであり、室工大の財政事情が苦しいものであつたとしても、欠員三名のうち一名については新たな任用がなされているわけであるから、大学当局として原告を他の欠員のある部署にあてることにつき十分な検討をなさなかつたことは稍恣意的なものということはできるが、それが裁量権を逸脱して違法にわたるものとまでは未だいうことはできないものと考えられる。

五  以上の次第で、原告が現に一般職の国家公務員たる地位の確認を求める請求並びにこれを前提として被告に対し昭和四九年四月一日から一日につき金二、四二五円の割合による給与の支払を求める請求は、いずれも理由がない。

六  次に原告が右地位を有しない以上、被告において原告の右地位を有することを争い、また原告につき昭和四九年四月一日以降任用更新しなかつたことは、これを何ら違法な行為ということはできないから、被告はこれにより原告に対し慰藉料の賠償義務を負ういわれはない。

七  結論

以上の次第であり、原告の請求は理由がないので棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 磯部喬 畔柳正義 平澤雄二)

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